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「天使の3P!」4巻 ネタバレ満載レビュー感想元ネタ探訪

ネタバレあり感想

本書はこれまでの作品進行ペースからするとゆったりとした流れの一冊。やってることは霧夢・柚葉・くるみの3人のライバルバンドが登場して、コードの説明して最後に時代劇のようにライブをするのみ。子供たちではなく、ひびきPにスポットをあてた巻といった感じか。構成としてもNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル」風の語り口(後述)はニヤリとさせるスタートという意味だけではなく、「今回は響の『プロフェッショナル』である」というテーマの頭出しとも取れる。
本作全体のテーマ「少女たちの葛藤、努力、才能、成長」「その少女たちを支える主人公」の二本立てのうち本書では後者に強くスポットが当たっている。そして、本書のあとがきにもある通り「時代劇のようなお約束」で締められていて、そのお決まりこそが蒼山サグ作品の魅力であることも最早論を待たないであろう。
正直、中盤の「音楽理論」を延々リヤン・ド・ファミユのメンバーに説明し続けるシーンはちょっと飛ばし読み気味となってしまった。が、「ひびきP回」としてはここがないと締まらないので何とも難しいところ。自分なんかは学生時代にちょっとギターとか触ったことがあるし、妹がピアノ(電子)をやっていたので多少理解は早いと思うが、そもそも弦楽器に触ったことがない、どうやって音を鳴らしているのかわからないという人には「フレット」や「コード弾き」みたいな概念は理解に至らない気はする。ただ、前作「ロウきゅーぶ!」でもバスケのルール説明はしていたように、ここでちゃんと「音楽」のルール説明をしておくというのは以後の作品世界の説明・広がりのためにも重要なのかもしれない。
劇中に出てくる実際の音楽作品が、サグ先生の青春時代の90年代後半から00年代前半に集中しているのは、自分のような30代としては全然問題ないんだけれど、いわゆる「ライトノベル」のターゲット的にはどうなんですかねぇ。め、メッセージだから……?

響が黄門様、リヤン・ド・ファミユの面々が助さん・角さんと巻を追うごとに水戸黄門感が出てくる本作。次巻、ついにお銀(桜花)が脱ぐのか……!?*1


さて、ここからは毎度の元ネタ解説・考察コーナー。

各種元ネタ解説

妹の髪シャンプー職人の朝は早い

NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」風のコピペ「ネトゲ廃人の朝は早い」が元ネタ。インタビュー形式での取材で職人芸について大真面目に語ってもらうという構成であるにも関わらず、その職人芸がくだらないというパラドックスが面白い。
ネトゲ廃人の朝は早い | ログ速@2ちゃんねる(net)

秋葉原までの移動手段(P42)

「川を越えると、いよいよ東京のどまんなか」という響の言葉からは隅田川を越えていることが推測されるなど、恐らくJR総武線各駅停車を東から西に乗っている。「東西に突き抜ける」の設定を無視しても、南側の多摩川であれば川を越えてもしばらく大田区なので都心という感じはなく、北側の荒川だと同じく北区の赤羽あたりを挟むため「川を越えてすぐ」都心ではない。西側の中央線方面から秋葉原に向かっても大きな川を越える場所はない。実際の総武線上り電車では、隅田川の前にそれより大きい江戸川を越えるのだが、それも含めての「川を越えて都心に近づいていく」なのだろう。地下鉄ではなく、乗り換えている描写もないため東京メトロ東西線や都営新宿線というのも考えづらい。

総武線の千葉方面に響と柚葉が乗っているのだとして、ではどこから乗っているのか。乗車駅は恐らく稲毛。稲毛であれば、「電車に乗ってしばらくは民家が立ち並ぶ風景」「JR総武線で秋葉原まで1本で1時間かからない程度」「川を越えて都心にたどり着く」「比較的大きな駅で、駅から徒歩圏に本屋が複数件ある」「地下鉄ではない」「路線図的に東西にまっすぐ突き抜ける路線」のすべてを満たす。稲毛より東の西千葉・千葉は響たちが住んでいる住宅街という感じはしないし、その西の新検見川~幕張本郷では「駅から徒歩圏に大きいのを含め本屋が2件ある」という街の大きさ設定からすると少し田舎すぎる。また、幕張本郷から西船橋あたりまでは沿線に畑も多く、柚葉のセリフ「進んでも進んでもおうちがいっぱい」とも合致しない。稲毛から乗ると新検見川~幕張本郷あたりまではしばらく民家が立ち並んでいるので、やはり稲毛だろう。「秋葉原まで1時間かからない」という設定にも合致する。

稲毛であれば駅近辺に教会(リトルウイング)も多いみたいなので、やっぱり稲毛かな。稲毛はいいぞ。千葉はいいぞ。

野生のメイドさん(P43)

「野生の○○」とは、ゲーム「ポケットモンスター」のフィールドマップでモンスターと遭遇した際のダイアログ「あ! やせいの ○○が とびだしてきた!」に由来するネットスラング。ある一定の場所・範囲で恒常的な「何か」が、突発的に別の場所に現れる現象を「野生の○○」と呼ぶことがある。柚葉が「野生のメイドさん」と呼ぶのは「本来であれば屋内で勤務しているはずのメイドさんが屋外で活動している」ことを指してのこと。他の例としては、プロのミュージシャンなどが動画サイトでアマチュア活動的な曲を公開すると「野生のプロ」などというタグがつけられたりするなどがある。

「女性向け」(P46)

いわゆるボーイズラブ、男性同士の恋愛などを描いた作品ジャンルの呼称の1つ。少女漫画やレディースコミックは狭義の「女性向け」にはあたらず、アニメショップや同人誌取り扱い書店などではこちらの意味で「女性向け」と表記することがある。

事案度(P71)

恐らく蒼山サグ作品を読むような人はコンテクストを理解できるとは思うが、ちょいとハイコンテクストな用語ではあるので触れておこうかと。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E4%BA%8B%E6%A1%88

事案とは、事件や事故とまではいかないがそれなり、あるいは事件事故に発展しそうな問題にすべき物事のこと。主に警察などの行政機関が事件ほどではない不審な出来事に対して「事案」と呼称する。特に不審者情報などは各機関が防犯活動として情報を発信しており、様々な事案が周知されるようになった。
(中略)
上記のようなあまりにもナーバスすぎる現状がネット上で話題になり、あわせてこれらの情報が総じて「事案が発生」と説明するため同様の行為を行うこと、あるいは事案にされかねない行動を蔑称的に「事案」と呼ぶ。

その「ナーバスすぎる現状」を下記に抜粋。

[声かけ]男が女子小学生に「おはよう」と声をかける

[ストーカー]自転車に乗った男が女子中学生を追い抜いた

「天使の3P!」なんて1冊まるごと「事案」ではないのか。「男が本屋で『天使の3P!』を買う事案が発生」ですよ。

過去の「天使の3P!」レビュー一覧

americanboss.hatenablog.jp
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*1:続刊続々の発売1年後に書く感想か、というアレ