「天使の3P!」3巻 ネタバレ満載レビュー感想元ネタ探訪

今までとは一味違った蒼山サグ・ワールド(ネタバレなし)

全体的にはこれまでの作品を踏襲するような、響と桜花の「初体験」の話が冒頭から展開されていたり、作者の趣味全開の「釣り展開」があったりと、蒼山サグ作品として楽しめる一冊。前作で明かされた希美の過去に続き、本作ではそらの過去が明かされている。

ただし、本作では「あとがき」で作者が明記しているように架空の島を舞台に設定していて、リアリティのある世界観を大切にしてきた作者にとっては

冒険したお話のつくり方を目指してみました
「天使の3P!×3」265ページより

とのことで、作中の主人公たちと同様に作者もまた一箇所には留まらないぞという意欲的な作品となっている。とはいえ最初から最後まで主人公の響から小学生キャラ達までメインキャラは暴走しっぱなし、パワフルかつスピーディーな展開の中で、そして今回は徐々に明かされる今作の舞台「双龍島」の文化や人々の「謎」が紐解かれ、また紡がれていくストーリーからは最後まで目が離せない。

もちろん、今作中でも「最高」であるところの小学生たちの「魅力的なシーン」は満載のため、電車やバスなど公共交通機関で大っぴらに読むのは避けるのが無難かも?*1

ここから ネタバレ 有り

ややミステリー仕立てなストーリー

孤島を訪れた主人公たちがその土地の文化・宗教などに触れながら事件(イベント)に巻き込まれ、難題に向き合って様々な葛藤の末に解決に導くという、ちょっとしたミステリー仕立てになっている。その中で、響視点での物語の叙述にも関わらず当初霧夢だと響が認識していた人物が「相ヶ江さん」と一貫して表記されていたり、読んでいく中で仕掛けが噛み合う瞬間の面白さは心地良かった。

今回も例によって、表紙を飾るメインヒロインであるところのリヤン・ド・ファミユの3人の影が薄かった。特に、過去が明らかにされたそら・ツッコミ役としてポジションを得た希美の2人よりももっと空気的存在になってきた潤の今後が心配でなりません。結末でインパクトのある行動を取った霧夢にあたふたするだけとか、完全に「それラノベの世界じゃ最底辺デスヨネ」的な言動じゃないですか。ロウきゅーぶ!の葵と違って桜花が響を落とせる位置にいるので、そもそも筆者はロリコンじゃないので、桜花ちゃんにもうちょっと頑張って欲しいですね。

霧夢を誘い出す方法にやや神話っぽいやり方が採用されていて、キャラたちの互いの分析や信頼関係からその展開になることがむしろ作品の魅力だとは思うんだけれど、個人的にはちょっと説得力にかける「響の勝ち」だったかな。下準備のシーンの周到さからして、もっと「おおっ」と唸るシーンが出てくるかと思ったけれど、ちょっと物足りなかった。ただ、物語として重要なのはその響によるトリックではなく、その後の壇上の大立ち回りにあったので、モゴモゴしながら読み進めた結果しっかり満足なので、まあその辺りは。

3巻時点で仕込んである伏線っぽいものはだいたい消化されて、あとは潤・桜花・正義さんの過去から現在の紐解きが待たれる。というかアニメ化するなら1巻やって2巻はほぼ飛ばして3巻やると1クールに収まって水着回作れて緊迫・シリアス展開を10話くらいに入れられてちょうど良いんじゃないの、とか思いながら読んでた。音楽ってジャンルは小説じゃなくてメディアミックス向き、でしょ、カドカワさん?

神がかり的な才能を持っている智花にすばるんが惚れ込んで、真帆・愛莉・ひなた・紗季の能力は並だった「ロウきゅーぶ!」とは違い、出てくる小学生キャラ達のポテンシャルが最初からいちいち高い、という辺りもちょいと気になる。「小学5年生でできること」のリアリティから徐々に離れつつある感じがするので、そういう「物語の方向性」みたいなものも意識しながら続刊を待とうと思う。

物語中に登場する「架空」について

本作の「あとがき」で蒼山サグ先生から提示されていた「架空」については、そこで書かれていた双龍島がフィクションであることはそんなに「冒険」という感じがしなかった。ファンタジー要素が排除されている作品の中に都合の良い架空の孤島が出てきても気にしないことはフィクション作品における不文律みたいなところはあると思うし、「なんかニコ動かYouTubeっぽいWebサービス」も「そういうインフラ」と考えるとやや濃い要素としての「架空」だと思うし、両親のいない家に小学5年生の妹を1人残して1週間も旅行に出る高校生の兄、ってのも十分にファンタジーな気はするけれど。本稿の先にも書いた通り、ポテンシャルが異様に高い小学5年生が多数存在するってのも、それはそれでファンタジーなわけだし。

そういう「あっロリコンバンドラノベロリコンバスケラノベと違ってちょっとファンタジーなんだな」というのをあらかじめ読者に匂わせておいて、その上で本作の「あとがき」に書かれている「物語の根幹部に存在する大きな『架空』」を次巻以降に見せていく、という目論見なのかなーと。

「天使の3P!」読んでて個人的に一番違和感なのって「そのネタをどうしてその年代の子供が知っているのか」なんだけどね。離島にブロードバンドが届いている時代に、高校生が紅の豚のワンシーンの光景を指して「日本では最も多くの人に雰囲気が伝わるかも」はちょっとキツい。

競馬以外の元ネタ

さて、本ブログの3Pレビュー恒例の元ネタ解説、まずは競馬以外編。

崖と崖の間にある砂浜の、赤い戦闘機

80Pの2~3行目、相ヶ江さんが案内してくれたビーチの描写。これは先にも書いた、1992年に公開されたスタジオジブリ制作のアニメ「紅の豚」の主人公・ポルコが、無人島にある切り立った崖に挟まれている砂浜に赤い戦闘機を保管してアジトにしている場所の、その景色を指してのこと。同じことを書くが、2014年の作品で高校生が「日本では~」と表現しているあたり、もしかしたら作中の登場人物は「2周目」以降である可能性をここで提唱しておきたい。

紅の豚 [DVD]

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希美の腰に巻かれた太平洋に浮かぶ島々

82Pの後ろから5行目の「希美は腰にパラオを巻いていて」という表記、この「パラオ」は誤記で「パレオ」が正しいものと思われる。「パラオ」は太平洋、フィリピンの東側に存在するミクロネシアの島々のこと。パラオで腰に巻いて出てくるって、旧日本軍の兵士がダイナマイトでも巻いてるのか(違)

パラオ - Wikipedia


小さい女の子の服だけを食い荒らすキョンの名前

145Pの後ろから4行目、小さい女の子の服を食べちゃう2匹キョン。この2匹の名前がそれぞれ「ジョン」と「スミス」なんだけれど、これの元ネタは「涼宮ハルヒ」シリーズの主人公・キョンが過去で出会ったハルヒに対して使用した偽名「ジョン・スミス」が由来か。「ジョン・スミス」とは、英語圏では「ジョン」も「スミス」もありふれたものであるため、日本の「山田太郎」のようなもの。

ジョン・スミス - Wikipedia

涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)

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競馬に関する元ネタ

「リヤン・ド・ファミユ」については2巻のレビューを参照。

ブラックタイド

29P最後の行「ブラックタイド」は競走馬名。三冠馬ディープインパクトの1歳上の兄で、2001年産の牡馬。重賞のスプリングステークスを勝っている。
ブラックタイド - Wikipedia

ゴールドティアラ

119P後ろから3行目「ゴールドティアラ」は競走馬名。1996年アメリカ産の牝馬で、2000年の交流G1南部杯の勝ち馬。

ゴールドティアラ - Wikipedia

ステイゴールド

119P後ろから2行目「ステイゴールド」は競走馬名。潤・希美・そらのスリーピースバンド「リヤン・ド・ファミユ」の作者的な由来になっている競走馬リヤンドファミユの父で、2001年にラストランを香港のG1で飾った。

ステイゴールド - Wikipedia