【ネタバレ満載】小学生は最高なのか? 天使の3P! 第2巻を読み終えて

まったく、小学生って最高だな。「天使の3P!」シリーズの作者、蒼山サグ先生が処女作「ロウきゅーぶ!」の中で残した名言であり、その精神は本書「天使の3P!」第2巻にも受け継がれているのかと思いきや、意外にも作品中での小学生たちの存在感は薄かった。けれども、その小学生たちを取り巻く年長者キャラの魅力がたっぷりと詰まっていて、潤・希美・そらの3人とそのバンドを盛り上げ、その居場所を守ろうと奮闘する姿には所々目頭が熱くなる場面があった。バスケットボールというスポーツをテーマにして一生懸命頑張る子供たちの姿をダイナミック描く「ロウきゅーぶ!」とは違い、音楽という視覚での表現がメインではないものをテーマにした作品の本書では、子供たちの可愛さと同じくその周りの大人達*1の活躍にも惹きつけられる。登場人物たちが織りなす「家族」の姿を、いつもの蒼山サグ節全開フルスロットルで楽しめる1冊。

ここからネタバレ有り

ここからネタバレ含む元ネタ解説&感想・考察。この先は物語の核心部分に触れる内容ばかりとなっています。

今度は釣りですか。冗談で「小学生バンドの次は、響が釣り好き少女と出会い――」みたいなネタを書いた覚えはあるけれど、本当に響が釣り好き少女と出会って釣りにハマる展開になるとは思いませんでしたよ。次は、実は正義*2さんの仕事は馬主のレーシングマネージャーだった! とかですかね(冗談じゃなくありそう) 作者の蒼山サグ先生は釣りにハマっているみたいで、釣りハウスを東京近郊某所に構えるつもりとか既に構えているとか、いないとか。ツイッターでは競馬の話か釣りの話か、釣った魚の写真か釣った魚を調理した写真か、たまに作品の宣伝をしているくらいですからね。

お披露目会の1曲目にイギリスのロックバンド・Oasisの"Don't Look Back in Anger"を潤たちに演奏させ、響による「国歌」級との解説をさせたのも、ノエル・ギャラガー好きの作者の趣味と思われる。

「天使の3P!」第2巻の一番の見せ所は、日本の勧善懲悪時代劇っぽく問題を解決するために大勢相手に大立ち回りを演じて形勢をひっくり返すという場面。その大立ち回りの中で、筆者垂涎の「小柄な少女が巨大なエモノで暴れ回る」というシーンがあって心が踊りましたね。「魔法少女リリカルなのはA's」でフェイトちゃんがバルディッシュザンバーを夜天の書に叩きつける、みたいな。

希美の祖父のライアンさんが、ある意味では悪役なんだけれど「英国紳士」として非常に緻密に描かれていたのも良かった。「ロウきゅーぶ!」含め、蒼山サグ作品では悪人や心の闇的なものが描かれる機会が少ない印象がある。

主人公・響の妹のくるみは、設定上は小学生なんだけれど作品内での"Oracle"的役割が強すぎるので、これ桜花に役割寄せたほうが自然なんじゃないかと思ったけれど、それやっちゃうと響が桜花に強く惹かれちゃうから妹のくるみが"Oracle"やったほうがいいのかな。そのせいで桜花が釣りキチのイロモノキャラになっちゃって、メインストーリーでは影が薄くなっちゃってるんだけど。そういえば、桜花へのラッキースケベという線も薄い。

影が薄いと言えば「ロウきゅーぶ!」でのもっかんは毎回色濃く描かれるのに対して、潤のメインヒロイン感がヒジョーに薄かった。響との関係性・響の意識度合いも大きく桜花に水をあけられているので、今後このあたりのバランスがどう動いていくのか楽しみでもある。

バンド名他、競馬が元ネタとなっている箇所の解説

潤、希美、そらの3人からなるスリーピースバンドの名前となった「リヤン・ド・ファミユ」の元ネタは、三冠馬オルフェーヴル有馬記念などを制したドリームジャーニーの全弟リヤンドファミユ。本書の中でも触れられていたが、兄達が活躍していたこともあり「家族の絆」という意味のフランス語から名付けられた。イギリス人のライアンさん*3がどうしてフランス語の"liens de famille"に感銘を受けて提案してきたのか、UKロックとフランス文化って水と油な気がするし、そもそもイギリス人とフランス人って何か仲悪いみたいな印象あるんだけれども、みたいなツッコミは尽きないが、エピローグ直前の良いシーンだというのに「リヤンドファミユ」をぶっ込んできたのを見て声を上げて大爆笑してしまいそんなことはどうでもよくなってしまった。なお、兄たちと同様の大活躍が期待された「家族の絆」ことリヤンドファミユ号は、ダービーを目指している途上で怪我をして長期休養を余儀なくされ、奇しくも彼の出られなかったダービーの覇者は「キズナ」と名付けられた競走馬であった。

ちなみにもう1つ、リヤン・ド・ファミユに決定する少し前、響が先に目にした桜花*4のバイトするパン屋の名前"Saonois"(サオノワ)は、フランスの競走馬の名前が元ネタとなっている。3歳時にフランスのダービーを制し、世界最高峰のレース凱旋門賞ではリヤンドファミユの兄オルフェーヴルと対決をした。そのSaonois、なんと馬主はフランスにあるパン屋のオーナーだそうで、桜花が働くパン屋"Saonois"の由来となっている。


蒼山サグ作品の中で数少ない「悪人」が登場して暴れてくれそうな次巻への引きもあり、希美以外のリトルウイングメンバーのバックグラウンドも描かれそうで、今後の「天使の3P!」に期待せずにはいられない。


*1:響や桜花は細かく言えば「大人」ではないのだが

*2:蛯名?

*3:メジロライアン? ライアン・ムーア

*4:桜花賞