ゆく馬の流れは絶えずして、しかももとの馬にあらず

グリーンチャンネルを日がな一日つけっぱなしにしておくと、朝から晩まで競馬場のコースを、パドックを、馬がぐるぐる回り続けている。しかし、その馬たちは何か同じような馬に見えても、一頭一頭違う馬なのである。

日曜日の香港国際競走中継を見たくて、引っ越ししてから接続していなかったグリーンチャンネルの配線をつないだ。弊世帯*1では、自分も嫁さんも「一歳半の息子までも」競馬中継を見るのが好きなので、レースがやっていれば飽きずに見ている。出資馬が走っているわけでもなければ馬券も買っていない、朝の1レースの2歳未勝利ダートの決勝線ストップモーションを見ながら「中、外、内の順かなー」「ああ~、中だね、中が出てるね」みたいな会話を夫婦でしている。シュンキチ(子供の仮名)はまだそういう細かいことはわかっていないので、画面が動いていれば何でも良さそうなんだけれど、障害レースで画面の向こう側から障害飛越をする画が好きなようで、「踏み切って、ジャンプゥ!」の掛け声とともにケタケタ笑っている。嫁さんは障害レースは苦手らしい。

さて、日曜日は雨だったのでシュンキチの散歩は公園に行かずに近所のイオンへ。嫁さんが買い出ししている間にシュンキチを子供コーナーへ遊ばせに行く。もちろんお金は自分を含め1円も持っていない。子供コーナーについても、ゲーム機の喧騒やアンパンマンバスみたいな「いかにも子供が好きそう」な場所は一切無視してシュンキチはエレベーターに突撃するのだ。エレベーターの扉の前に張り付いたかと思うと、障害がある人向けの下行きボタン*2を押そうとする。「乗らないからね、あっち行こうね、アンパンマンいるよ」と諭してもボタンを押そうと*3してガンとしてその場を離れようとしない。他の人の邪魔だし自動扉に手や体を挟まれると危ないので抱えて数十メートル程離れる。シュンキチを地面に降ろす。シュンキチはダッシュでエレベーターの方向へ。繰り返しなのである。ラチがあかない。どうしようもないので、大きく離れれば大丈夫だろうとフロアの反対側に運ぶと、そこにはまたエレベーターが。そこでもまた遊び出す。再度全然違う方向に運んだら、またエレベーターが。イオンの3階は御釈迦様の手のひらの上だというのか――。シュンキチさんは、どんなにエレベーターから引き離しても無限の体力でまたエレベーターに向かうのであった。

買い物をしていた嫁さんは、土曜の夜に開けたベルギービールのグーデンカロルス・クラシックが相当お気に入りだったらしく、イオンリカーで3本確保していた。確かに美味しかったし、レアな商品なので売ってるうちに確保しちゃおうみたいなことも言ったけど翌日に買い集めるとは。

家への帰り道から既に眠かったシュンキチは、帰ってからすぐにダウン。中央競馬のメインレースが終わる頃に起きだしてきて、競馬中継がついているのを見ると「やってるんじゃねーか」という顔をしながらテレビにかじりつく。いつもなら昼寝から起きると競馬中継はだいたいおしまいなんだけれど、その日は違っていた。そのまま香港国際競走の中継にハシゴ。そのまま楽しい平和な競馬中継が夜まで続く――、だったら良かったのにね、シュンキチさん。

香港マイルの中継が現地から5分のディレイで始まる。中団後ろからエイブルフレンドを引き連れて直線勝負に賭けるモーリス。最終コーナーを回って少し脚色が悪いモーリス。「ダメかっ」「ここから!」子供のことなんて完全に忘れてエキサイトする大人2人。エイブルフレンドに並ばれてから、更に加速し1馬身ほどエイブルフレンドを抑えながらグイグイ前を追いつめていくモーリス。「差せ! 差せ!」の怒号。後ろからの追撃に「そのまま! そのまま!」の大絶叫。日本の最強マイラー・モーリスは前を捕えエイブルフレンドの猛追もしのぎきり、見事にウイニングポストを先頭で駆け抜けた。「ヨッシャー!」「スクリーンヒーローすげぇ!」自分の足元に目をやると、シュンキチさんは何かもう親2人が大騒ぎしてるのが怖かったのか、嫁さんの足にすがりついていた。スマンな……、でも許してくれ、これが楽しみで生きているんだ。

そして、香港カップでも似たようなことがもう1回。逃げ切るエイシンヒカリの雄姿に再び大騒ぎする親2人。「ユタカさんすげぇ!」「ディープインパクト!」これが……楽しみで……。

子供→大人の順番で夕飯を食べ、お風呂の前にテレビをつけ、グリーンチャンネルの「重賞メモリアル」で朝日杯の過去の映像を振り返る。つけた瞬間がグラスワンダー*4の朝日杯であったのは何かの偶然か。そこから、「次の年の勝ち馬は何だったか」を夫婦2人で思い出し続ける遊びを始める。「認知症予防に良さそう」「競馬場にいるジイサンは体はボロボロだけど頭はハッキリしてる理由はこれか」などと会話をしながら「エイシンキャメロンが2着なのは思い出したけど勝ち馬がわからない」「ペリエの野郎がサイレントディールをアホみたいに追いかけて直線バタバタ、レコード決着で怒り心頭だった」「まさかゴスホークケンがこの後あんなにダメだとは……」「この後の弥生賞マイネルレコルトディープインパクト馬連にしこたま突っ込んでなぁ」みたいな思い出話を一方的にしながら、番組は2014年ダノンプラチナの朝日杯まで見終わりシュンキチさんのお風呂タイム。

お風呂から上がりシュンキチさんを寝かしつけた後は、今年の6月に黒糖で漬けた梅酒を、野沢菜漬け(既製品)、レンコンとセロリの葉のきんぴら(嫁さん作)、長ネギ焼きのみりん漬け(自作)などでいただく。「競馬場の達人」の小藪回を見ながら「芸人は買い方まで視聴者を意識していて凄い」みたいなお話を。そのまま今日のレースリプレイを流しながらダイアリーにアップするつもりのレース回顧をパチパチ書いて、書き終わって歯磨きしながら嫁さんの見ている「ハイキュー!!」のテレビアニメ2期を眺めていた。歯磨きをし終えたあたりで、スパイクの練習をする烏野の面々に、スガさんが「俺も混ぜてくれ」と申し出て「トス上げてくれるんですか」ときかれ「「いや、打つほうで」」と答えるセリフをシンクロさせて「このセリフ好きだから覚えてるなー」というウザ絡みを披露。いや、嫁さん真面目に見てるんだからあからさまに邪魔だろう。拙者は翌日早いので寝るでござる、という感じでシュンキチさんの寝ている寝室へ。子供の寝相は悪い。真横に寝て布団を1つ占拠されていたので、ナナメに寝る羽目に。これが地味にキツいのよね……。

諸行無常」であるからこそ、その無常を書き留める。ここで切り取った2015年12月13日も、無常なものから常なるものへと少しは近づいたのではないか。

*1:最近気に入りの表現、要は「我が家」

*2:ギリギリ手が届く一番下のボタン

*3:力が弱くてボタンは押せない

*4:モーリスの祖父